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炭酸水素ナトリウムの熱分解~最初にして最大の難関!攻略のカギは”炭水ナはニ水炭ナ”~

 こんにちは。頭文字Dです。
 中学生に勉強を教えてかれこれ25年以上になります。その経験を活かして、「授業を聞いても理科がわからない人」を「なるほど、そういうことだったのか」と納得してもらおうとこの記事を書いています。
 今日は、中学校2年生理科で習う【化学変化】から、炭酸水素ナトリウムの熱分解について説明します。
 この記事は次のような人の疑問を解決します。

・炭酸水素ナトリウムの実験がわからない
・炭酸水素ナトリウムの実験の問題が解けない

(1)炭酸水素ナトリウムの熱分解が難しい理由

 今日説明する炭酸水素ナトリウムの熱分解ですが、ほとんどの教科書で一番最初の実験として紹介されています。
ですが、ここで

実は、炭酸水素ナトリウムの熱分解が一番難しい実験

という問題にぶち当たります。
 なぜ難しいのかというと、前回紹介した4つの大きな壁のうち

a.物質の名前が難しい
b.1年生の時と比べて、発想の転換が必要である

の2つの壁が当てはまるからです。
 単元の最初にこの2つの壁にぶつかるのにもかかわらず、ほとんどの教科書で(そして、教科書を使って教えていないほとんどの先生が)一番最初の実験としてここを扱うのです。
 なぜでしょうか?
 理由はこれです。

カルメ焼きやホットケーキの話題から導入でき、生徒にとってなじみ深い反応であるから

 その証拠に、教科書にはカルメ焼きやホットケーキの写真が大きく載っています。中には、実際にカルメ焼きをつくる実験を行う先生もいます。
 生徒の興味を引くという点ではとてもよいのですが、生徒の興味を引くのとその後にチョー難しい内容を学習することがよいのかどうか・・・議論の余地があると思います。
 ・・・それはさておき、この壁を越える方法を紹介します。
 a「物質の名前が難しい」は、前回の記事で「水酸化ナトリウム」「炭酸ナトリウム」「炭酸水素ナトリウム」の違いについて詳しく説明しました。

「名前は似ているけど、まったく別の物質である」と割り切ることが大切

です。
 b「発想の転換」については後ほど説明していきます。

(2)実験の注意点

 この実験では、操作方法について2つ重要な注意点があります。
 それは

a.加熱するときは試験管の口を下げる
b.加熱をやめるときには、ガラス管を水槽から抜く

ということです。
 この操作を聞く問題と、なぜそうするのかという理由を聞く問題が多く出されます。
 a.「加熱するときは、試験官の口を下げる」理由はこれです。

発生した液体の逆流を防ぐため

です。特に太字の部分に注意してください。

 b.「加熱をやめるときは、ガラス管を水槽から抜く」理由はこれです。

水槽の水の逆流を防ぐため

です。先ほど同様、太字の部分に注意してください。

 ここで、「加熱をやめるときに、ガラス管を水槽から抜かなかったらどうなるの?」と疑問を持つ人がいるでしょう。
 加熱をやめる前にガラス管を水槽から抜かなかった場合、
水槽の水が試験管の中に流れ込む場合
があります。これを「逆流する」と表現します。
 どうして逆流するのかというと、加熱をすると中の気体が膨張(体積が大きくなること)します。
 これは小学生の時に習った「物質は温度が上がると大きくなる」という原則によるものです。
 加熱しているときは体積が大きくなっているのですが、加熱をやめると気体の体積は急激に小さくなります。
 それまで膨張していた気体が急に小さくなるとどうなるのか?試験管内の気圧が急に低くなり、真空に近い状態になります。
 掃除機をイメージするとわかりやすいかと思いますが、真空に近くなると周りのものを吸い込む力がはたらきます。
 この実験の場合、吸い込むことができるのはガラス管によってつながった水槽しかありません。水槽の中には水がたくさん入っています。だから、加熱前にガラス管を抜かなかった場合、水槽の水が試験管の中に逆流してしまうのです。
 そして、試験管に入った水が加熱されていた部分に触れてしまうと大変です。
 加熱されていたものが、急に冷やされるともろくなります。もろくなって試験管が割れてしまうのです。もっとも、最近の試験管は安全性が高いので、ガラスが飛び散ることはほとんどないようになっていますが・・・、それでも安全に気をつけることに越したことはないので、逆流させないようにしましょう。
 ちなみに、水槽からガラス管を抜いた場合も試験管の中は真空に近い状態になります。しかし、この場合は水槽につながっていないので、ガラス管から空気が入っていきます。
 空気であれば、加熱された部分に触れてもガラスは割れないので安全なのです。

(3) できた物質を確認する方法

 それではいよいよ、炭酸水素ナトリウムを加熱してできた物質を確かめる方法と、できた物質を確認していきましょう。
 この実験の様子は、この動画を見るとよくわかります。とてもよい動画なのでお薦めです。
https://rika-net.com/outline.php?id=00002057021f&top=1
 この実験では気体・液体・固体の3つの物質ができます。
 最初に気体から見ていきましょう。
 炭酸水素ナトリウムを加熱して出てくる気体を石灰水に入れます。
 そうすると、
石灰水は白く濁り
ます。
 だから、
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

石灰水が白く濁った→二酸化炭素

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ということがわかりました。
 なお、1年生の時はこのような勉強をしたはずです。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

二酸化炭素がある→石灰水に入れると白く濁る

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 こうしてみると、1年生の時と2年生の今では考え方が逆になっていますね。これが発想の転換なのです。

 続いて、発生する液体について調べていきます。
 ここで、物質を調べる方法を1つ覚えましょう。
 それは
塩化コバルト紙
という試験紙です。
 塩化コバルト紙は中学校の理科でここにしか登場しない、かなりレアな試験紙です。
 レアな試験紙なので、テストや試験ではけっこう問題として登場します。
 次のことは、絶対に覚えておきましょう。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

塩化コバルト紙が水につくと、青から赤になる

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 覚えましたか?定期テストでは必ずといっていいほど聞かれる内容なので、絶対に覚えてくださいね。
 それでは実験に戻ります。
 炭酸水素ナトリウムを加熱して発生した液体に、塩化コバルト紙をつけます。そうすると、塩化コバルト紙は青から赤に変化します。(色の変化については動画をご覧ください)
 だから
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

塩化コバルト紙が青から赤になった→できた物質は“水”

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ということがわかります。

 最後に、試験管の中に残った固体について考えていきましょう。
見た目はほとんど変化ありません。見ただけで何の物質かわかってしまう人は、おそらく超能力者です。人間業ではありません。
 そこで、加熱前の物質と加熱後の物質の性質の違いを調べるために、2つの実験をしてみましょう。
 その2つの実験とは
ア 水に溶かす
イ フェノールフタレイン液を入れる

です。
 まず、加熱前の炭酸水素ナトリウムと加熱後にできた物質を水に溶かします。

 写真の右側の青いテープを貼った試験管が加熱前の炭酸水素ナトリウムです。
真ん中の黄色いテープを貼った試験管が加熱後の物質です。
 なお、参考までに左側の赤いテープが貼ってある試験管は水酸化ナトリウムに水を入れたものです。
 比べてみると、
炭酸水素ナトリウムがたくさん溶け残っている
ことがわかります。
 加熱後の物質も溶け残っていますが、それほど量は多くありません。
 このことから、

加熱前の炭酸水素ナトリウムと加熱後の物質の、水にとける性質は違う

ことがわかります。

 さらに、この水溶液にフェノールフタレイン液を入れてみましょう。次のようになりました。

 フェノールフタレイン液を初めて使う人もいるかと思います。
 フェノールフタレイン液とは何かというと、
アルカリ性で赤色になる指示薬
です。
 指示薬とは「酸性・中性・アルカリ性の度合いを調べる薬品」と思ってください。小学生の時に学習したリトマス紙や中学1年生の時に習ったBTB液が有名ですね。
 そのフェノールフタレイン液を入れるとどうなるでしょうか?
 加熱前の炭酸水素ナトリウムはうすい赤色になります。(写真では白っぽく見えていますが・・・)
 加熱後の物質は濃い赤色になっています。
 つまり、

加熱後の物質の方がアルカリ性が強い

ことがわかります。
 なお、水酸化ナトリウム水溶液にフェノールフタレイン液を入れたときの結果が無色な理由は前回の記事に書いてあるので、そちらをご覧ください。

化学変化はなぜ難しいか~これを知れば成績が伸びる4つのポイント~

 ここまでで、次のことがわかりました。

加熱前の炭酸水素ナトリウムと加熱後の物質は違う性質である

ということです。
 そして、この加熱後の物質のことを

炭酸ナトリウム

といいます。
 ・・・という説明ですが、腑に落ちていない人も多いと思います。
 「性質が違うのはわかったけど、どうして炭酸ナトリウムだと言えるの」という疑問を持つ人が多いと思います。
 はっきり言って、「この実験をしてこのような結果になったから炭酸水素ナトリウムだよ」という実験はありません。
 だから、ここは多少強引に、「これは炭酸ナトリウムという物質なんだ」と覚えてしまうしかありません。ここだけは中学生が習う理科の知識だけでは、どうしても理論的に説明できないのです。

(4) 覚え方は“炭水ナは二水炭ナ”で

 それでは、この実験の結果を覚える方法を紹介します。
 かなり複雑な実験なので、短くして覚える必要があります。
 その覚え方は

炭水ナは二水炭ナ

です。

トリウム→酸化炭素+トリウム

という意味です。太字の部分だけを取り出して覚えましょう。

 もう一つ、付け加えます。
 炭酸水素ナトリウムを加熱したときのように、1つの物質が2つ以上の別の物質に分かれる化学変化を

分解

といいます。
 分解の中でも、加熱によって生じる分解を

熱分解

といいます。

 この2つの用語もしっかりと覚えて起きましょう。

(5)化学反応式で理解する

 最後に、化学反応式について説明します。
 化学反応式の書き方はいずれ説明しますし、この実験の化学反応式が公立高校の入試問題に出ることは、まずありません。中学生では学習しない内容になっているからです。
 しかし、一部の私立高校では出題される可能性があります。北海道では函館ラ・サール高校などで出されることがあるみたいです。

 炭酸水素ナトリウムの熱分解の化学反応式は
2NaHCO3→Na2CO3 + CO2 + H2O
です。
 やり方が分からなかったのでできなかったのですが、赤の斜体で書いた文字は小さく下に書きます。どうしてそう書くのかは、この後の「化学式の書き方」や「化学反応式の書き方」で説明します。
 炭酸水素ナトリウムの化学反応式は、覚える余力がある人は覚えてもよいかもしれません。が、公立高校の入試だけを考えている人は、覚えなくてもかまいません。
 どのようにして反応が進むかについては、アニメーションで説明した動画がありますので、そちらをご覧ください。
https://rika-net.com/contents/cp0020f/contents/anim13.html
 先ほどの実験の映像も含めて「理科ねっとわーく」というチャンネルには、とてもよい映像やアニメーションが用意されてます。

 今日はここまでにします。最後までご覧頂きありがとうございました。

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